東京地方裁判所八王子支部 昭和63年(ワ)1922号 判決 1996年11月25日
甲事件、乙事件原告
玉置和枝
右訴訟代理人弁護士
村田光男
甲事件被告
福澤好一
甲事件被告
関口文男
乙事件被告
羽村市
右代表者市長
井上篤太郎
右三名訴訟代理人弁護士
杉野翔子
主文
一 甲、乙事件原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は甲、乙事件原告の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
(甲事件)
一 請求の趣旨
1 甲事件被告福澤好一、同関口文男は、甲事件原告に対し、連帯して金二一三万三二〇〇円及び内金一八八万円に対する昭和六三年一〇月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 甲事件被告福澤好一は、甲事件原告に対し、金一〇万円及びこれに対する平成七年一〇月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3(一) 甲事件被告福澤好一は、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞の多摩版(掲載場所は多摩版紙面)、羽村市教育委員会の発行する「羽村の教育」及び羽村市立小作台小学校の発行する「学校だより」に、別紙一<略>掲載の内容の謝罪広告を高さ六・九センチメートル、幅九・五センチメートルの大きさで一回掲載せよ。
(二) 甲事件被告関口文男は、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞の多摩版(掲載場所は多摩版紙面)、羽村市教育委員会の発行する「羽村の教育」及び羽村市立小作台小学校の発行する「学校だより」に、別紙二<略>掲載の内容の謝罪広告を高さ六・九センチメートル、幅九・五センチメートルの大きさで一回掲載せよ。
4 訴訟費用は甲事件被告らの負担とする。
5 第1、2項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 甲事件原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は甲事件原告の負担とする。
(乙事件)
一 請求の趣旨
1 乙事件被告は、乙事件原告に対し、金四〇三万三二〇〇円及び内金三五八万円に対する平成元年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 乙事件被告は、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞の多摩版(掲載場所は多摩版紙面)、羽村市教育委員会の発行する「羽村の教育」及び羽村市立小作台小学校の発行する「学校だより」に、別紙三<略>掲載の内容の謝罪広告を高さ六・九センチメートル、幅九・五センチメートルの大きさで一回掲載せよ。
3 訴訟費用は乙事件被告の負担とする。
4 第1項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 乙事件原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は乙事件原告の負担とする。
第二甲、乙両事件の事案の概要
一 本件は、前羽村市立(当時羽村町立)小作台小学校(以下「小作台小学校」という。)の教員であった甲、乙事件原告(以下「原告」という。)が、当時右小学校の校長であった甲事件被告福澤好一(以下「被告福澤」という。)、当時右小学校の教頭であった甲事件被告関口文男(以下「被告関口」という。)に対し、右被告らが原告に対してその在任中に職務に仮託して名誉毀損行為やいじめを行ったとして、不法行為に基づく損害賠償を求め、さらに、小作台小学校を設置した乙事件被告(以下「被告羽村市」という。)に対して、被告福澤、同関口の右不法行為及び被告福澤の後任の校長である井上忠治(以下「井上」という。)、右小学校の教員であった宇津木武世(以下「宇津木」という。)の原告に対する数々の名誉毀損行為やいじめの各行為について国家賠償法一条に基づく損害賠償を求めるとともに、名誉回復のための処分として、被告らに対し、謝罪広告の掲載を求めた事案である。
二 争いのない事実及び容易に認定できる事実
1 被告福澤は、昭和五二年四月から昭和六二年三月まで小作台小学校の校長、被告関口は、昭和六〇年四月から同小学校の教頭、宇津木は、昭和五二年四月から平成元年三月まで同小学校に勤務する教員だった。井上は、昭和六二年四月から同小学校の校長を務めていた。(<証拠・人証略>)
2 被告羽村市は、小作台小学校を設置運営している地方公共団体である。
(争いがない。)
3 原告は、昭和三八年四月から小学校の教員を務め、昭和五六年四月、小作台小学校に赴任した。(争いがない。)
三 争点
1 被告福澤、同関口の原告に対するいじめ並びに名誉毀損行為の事実の有無及びその違法性の有無
(一) 原告の主張
(イ) 被告福澤、同関口は、いじめのない、子供達のための学校作り等に熱心に取り組む原告の発言や活動が、自分の意に沿わないことに憤り、その私憤を晴らすために、職務に仮託して、私人的行為として、原告に対し、被告福澤が後記いじめ1、2、3(但し、宇津木の行為を除く。)4ないし6、8、9、11(但し、宇津木の行為は除く。)の、被告関口が後記いじめ7、10(但し、宇津木及び井上の行為は除く。)のいじめ行為及び名誉毀損行為を行った。被告福澤、同関口の原告に対する右いじめ行為等は、子供達にいじめの手本を示すようなものであり、特に管理職である教員が子供を指導する一般教員をいじめることは、教育者のするいじめとして、子供達に対する人格形成に強い影響を及ぼし、単なるモラルの問題を越えて、違法性を有するものというべきである。
(ロ) 被告福澤、同関口、井上、宇津木は、原告に対し、後記いじめ1ないし11の各行為をそれぞれ行ったが、右各行為は、同被告らにおいて、校長及び教頭等の小学校における管理職としての裁量権限を逸脱した違憲かつ違法な職務行為である。即ち、学校教育法二八条三項の所属職員管理権限を逸脱し、地方公務員法三三条の信用失墜行為禁止に反し、憲法二六条一項の教育を受ける権利に対応する、教員の教育をする権利を侵害した違法行為である。
特に、後記いじめ2、4、6、7、11は、被告福澤の不正隠蔽行為として、原告に対する一貫したいじめを行ったものである。即ち、被告福澤は、授業時間中にPTA行事を行うという違法行為により、授業時間をごまかしていたところ、原告が、学級の児童全員に対し参加を強制する親子行事に対し、反対の立場を表明するに至ったため、自らの不正を隠蔽するため、かねてから親子行事の盛んであった三年一組(担任川津紘順)の次年度(四年一組)を本来川津紘順に持ち上がりで担任させるべきところを原告に担任させるという異例の措置を執り、親子行事に慣れ親しんだ父母らから原告に対する反発を煽るように仕向けた。そして、被告福澤は、PTA会長を通じて、学級委員に、PTA運営委員会において、原告を中傷する発言をさせ(後記いじめ4参照)、原告の考えに共感する父母が増えてきたことを知るや、父母に対する信頼を失墜させるために、一存で父母会を開催するとともに学級通信の発行を停止させ、原告を誹謗・中傷するに至ったものである。したがって、被告羽村市は、当時公務員であった被告福澤、同関口、井上、宇津木の後記いじめ1ないし11の各不法行為につき、国家賠償法一条に基づく損害賠償責任を負う。
(1) 昭和五九年二月、被告福澤は、原告が作成した、羽村町(当時)内の小学校の「学芸会、作品展示会」の指導のあり方に関する同町の議会だよりとそれに対する原告のコメントを掲載した学年だよりを、配付前に宇津木を介して入手し、原告に対し、記事の差し換えを指示した。
同年五月、被告福澤は、原告が教室に置いた、いじめに関する新聞記事の切り抜きの写しを宇津木を介して入手し、原告に対し、その使用目的を問いつめた。(以下「いじめ1」という。)
(2) 昭和五九年六月二八日付のPTAの連絡ニュースに、「移動教室、修学旅行に父母の見送りが多いと、教師もやりがいがあるのではないでしょうか。今回は少なかったようです。川津先生談。」との記事が掲載された。
原告は、職員会議で、右記事が教師全体の意見と受取られかねないこと、父母の見送りの多寡が教師のやりがいを左右するものではないこと、父母の見送りは子供の自立を妨げる行為であること、父母が見送りに来られない子供に対する配慮に欠けることをあげて批判的意見を述べたところ、被告福澤は、問題はないと強い口調で原告に告げ、原告の提起した話題を一方的に打ち切った。
被告福澤の態度は、原告と親子行事に積極的であった教師の川津紘順とを公然と差別するものにほかならない。(以下「いじめ2」という。)
(3) 昭和五九年七月頃、原告は、宇津木が、原告の担任する四年一組の児童について、ソシオメトリックテスト(児童全員に嫌いな子の名を記載させる調査)を実施し、昭和六〇年三月頃その結果を児童に公表したことを知り、宇津木に事実の確認を求めたが、同人がその事実を否定したため、被告福澤に対し対処を求めたところ、同被告は原告に対し「宇津木先生がそんなばかなことをするはずがない。玉置さんは何を言うんですか。」と言って原告を非難した。
宇津木は、昭和六〇年三月には被告福澤及び父母の前で自分がソシオメトリックテストの結果を発表したことを認めていたのに、昭和六三年八月、校長室で、事情を知らない井上に対し、原告が、ソシオメトリックテストの結果を発表したかのごとく虚言を言い井上の原告に対する信頼を損ねた。(以下「いじめ3」という。)
(4) 被告福澤は、昭和六〇年六月八日に開かれたPTA運営委員会において、自身は欠席したが、PTA会長を通じ、原告担任の四年一組のクラスPTA委員青木利男の代理として出席した同人の妻青木いそみに、多数の教員と父母の前で「玉置先生から届いたプリントの中に、玉置先生の意見に反対すると子供に風当たりが強いということが書いてある。」などと、青木利男らの誤解に基づく、事実に反する発言をさせ、原告の名誉を棄(ママ)損した。
さらにその後、被告福澤は、右発言を放置し、反対に、同年七月五日、同月一九日、同月二〇日に、「クラスの父母が親子行事をしたいというのに、玉置先生が反対だからできないというクラス状況は問題ですよ」「父母は親子行事をやりたいというのに、担任が反対するのはおかしいですよ。」などと発言してPTA会長及びクラス委員の前で原告を非難し、さらに同月八日及び同月一〇日にPTA会長主催の会を開かせて右発言を正当化し、原告への父母の信頼をさらに損ねる発言をさせた。
なお、原告は、親子行事そのものに反対しているのではなく、親が来ることができない児童や、親のいない児童に配慮して、任意参加による親子行事を行うのであれば良いと考えていた。(以下「いじめ4」という。)
(5) 昭和六〇年九月一八日、原告は交通事故に遭い、肋骨一本を骨折する傷害を負ったが、大したことなく出勤していたところ、同月二〇日、被告福澤は、他の教員からは提出を求めなかったのに、原告に対してだけは診断書の提出を求めて、原告を差別した。(以下「いじめ5」という。)
(6) 原告は、前記(4)記載のとおり、四年一組の学級担任の原告と父母との関係が混乱したため、その収拾を図るべく、学級通信に学級運営の方針を掲載して父母と意見交換をすることとし、昭和六〇年九月一二日以降、父母から寄せられた担任を支持する意見と批判する意見を学級通信に掲載したところ、同年一〇月一六日、被告福澤は、右記事に他の教員に対する批判部分があるとして問題にし、担任である原告に相談することなく職権を濫用して、四年一組の父母会を開催し(原告は欠席)、その席上、約二〇名の父母に対し次の<1>ないし<8>の発言(特に<2>ないし<4>は虚偽の事実の発言)をして、公然と原告を非難中傷し、原告の名誉を棄(ママ)損した。
<1> 「同僚が批判されている父母の意見は、握り潰すのが常識。私だったら握り潰す。」
「学級通信に寄せられた父母の意見の中に、学校の他の教員に対する批判が出ていた。自分の部下が批判されていることに対して、皆さんに誤解を解いてもらわなくてはならないので父母会を開いた。」「少なくとも小作台小学校の先生方が、子供一人一人に対して配慮がない、という意見と判断せざるを得ない。玉置先生をほめるのは結構だが、他の先生を引き合いに出してもらっては困る。校長として、他の先生も信頼してほしい。」
<2> 「担任の玉置先生に、今日の父母会に是非出てきて欲しい、と言ったのだが、『組合の活動がある』ということで出られません。」
<3> 「学校から出るプリントは、原稿の段階で校長がチェックしなければいけない。他の先生は皆そうしている。けれど、玉置通信は、事前に見せられたこともなく、手元に来ない場合もある。」
<4> 「担任に再三注意しても従わない場合、職務命令違反になる。私が今までやってきた中で、玉置先生からは『はい、分かりました。』という言葉を聞いたことがない。」
<5> 「クラスのPTA委員が『玉置先生の意見に反対すると、子供への風当たりが強い』と、PTA運営委員会で発言したことは、解釈にはいろいろあるのだから良い。玉置先生が騒ぎ立てることではない。」
<6> 「PTAの親子行事を親の来られない子がいるからやらない、という担任玉置の考えは、あまりに固い硬直した考えだと僕は思う。」
<7> 「学級通信は莫大なものが出ている。これほどまでに騒ぎ立てなけりゃならなかった問題かどうか。」
<8> 「一つのものに固執することは、いずれは摩擦を大きくするだけ。もう少し柔軟な考えを持ってもらいたい。」(以下「いじめ6」という。)
(7) 被告関口は、右の父母会で司会をしていた。その際、本来ならば、前記(6)記載のとおり数々の嘘をついて原告を非難・攻撃していた被告福澤に、注意を促すべきところを、父母会の終わりの方で、「この種の問題はこれからはやらないような方向の方が良いのではないか、と思っているんです。文章にすると、ちょっとした言葉で行き違いが出る。ここでなら何とでも言えますけど。例えば、先生が『前向きに』と書いてありましたけど、文章にすると、今までは前向きではなかったのか、ということになるし、だんだん発展してしまうんですね。今まではそういうことの繰り返しのような気がします。」と発言して、被告福澤のいじめ6の不法行為を支持・幇助した。その後、原告は、被告福澤に、学級通信の発行の継続をかけあったが、中止を余儀なくされた。
又、昭和六〇年一二月一一日の職員会議で、原告が全教員に対してその前日配布した主に右父母会での被告福澤の発言等が記載された文書に基づき、全教員の討論を要求したところ、被告関口は、熱心に頼む原告を制止し、「ぽっと出されましたけど、あろうがなかろうが、こういう中身は職員会議の議題じゃないと思うんです。」「いいですか、議題になんかならないと私は思うんですよね。」「一体これが何で職員会議の議題になるんですか。私はやる必要がないと思います。」と発言し、更に、職員会議終了後、被告関口は、職員室の原告の席まで来ると、右文書の「教頭先生の発言」というところを開け、強い口調で、「玉置さん、あんたは何の根拠があってこれを書いたんですか。明らかにしてもらいますからね。」と告げ、原告をいじめた。(以下「いじめ7」という。)
(8) 昭和六一年三月一三日頃、被告福澤は、原告が四年一組の児童を指導して、いじめを題材とした文集を作成してクラスの児童及び全職員に配付し、昭和六一年三月一三日付け朝日新聞朝刊多摩版にその紹介記事が掲載されたことについて、いじめに関する訴訟事件が生じていた羽村一中校長から抗議があったとして、原告に対し、「何でこんなものを作ったのだ。」と言って怒った。
被告福澤の右対応は、文部省や東京都の通達が、いじめへの取組みを訴えていることにも背くものであり、原告と父母が力を合わせていじめを考え取り組んだことを否定するもので、原告に対するいじめ行為である。(以下「いじめ8」という。)
(9) 昭和六一年五月頃、被告福澤は、原告が、原告の中学校二年生の子供の通学する羽村二中の教員の家庭訪問を受けた際、自己が発行した学級通信(中学校における親子の父母会について検討を要する旨記載したもの)を手渡したことについて、全職員の前で「玉置先生の学級通信が羽村二中に渡り、羽村二中から『こんなことを書かれては困る』と抗議されました。私は今日、羽村二中に誤りに行って来ました。」と言い、原告を非難し、いじめた。(以下「いじめ9」という。)
(10) 昭和六三年七月六日、原告が担任していた五年二組の三、四時間目の家庭科の授業で、家庭科担当の宇津木は、児童の一人が、給食で残った牛乳を持ってきて原告に飲ませたことがあると言ったところ、児童多数の前で、給食の牛乳は親が働いたお金で買ったものであり、原告は給食の残った牛乳を飲む悪い先生だという趣旨の発言をして原告を泥棒呼ばわりし、原告の名誉並びに原告と児童との信頼関係を損ね、学級の運営に支障を来した。
同月一三日の職員会議で、原告は、右の件の事実関係について報告したところ、被告関口は、感情むき出しで原告を非難しつつ原告の発言を制止し、更に同月一九日にも、「宇津木先生が右発言をしないと言っているのに、子供の話が信用できますか。裁判にしたらどうですか。」などと暴言を吐き、原告の教育活動を妨害した。
井上は、右に関して羽村町(当時)教育委員会に提出した昭和六三年八月一二日付「玉置教諭の投書に対する報告書」において、右の件に関して、原告に対し、「子供を巻き込む指導の非を諭し」た旨の虚偽の記載をして、原告の名誉を棄損(ママ)した。(以下「いじめ10」という。)
(11) 被告福澤は、昭和六二年三月頃、原告が担任した学級の児童の父母であった川上紀久子に対し相対で、又、PTA運営委員会のような父母が数多く集まる場で、「玉置先生は一人で学校内をかき回しているため他学級や他学年の親子行事までできなくなっている。」と原告を中傷する発言をし、原告の名誉及び原告と原告が担任した学級の児童の父母との信頼関係を著しく損ねた。
宇津木は、昭和六二年四月頃、右父母に対し「玉置先生は組合活動に熱心で、授業は自習ばかりなんですよ。朝から授業をしないで組合の方に出かけてしまうので、玉置先生のクラスの授業を私達が見なくてはいけないんです。結局しわ寄せは私達に来るんですよね。」「玉置先生は足の不自由な子をいじめているんですよ。普通学級だといじめられるから、中学は養護学校に行ったほうが良いと思います。」などと原告を中傷する発言をし、原告の名誉並びに原告と原告が担任した学級の児童の父母との信頼関係を著しく損ねた。(以下「いじめ11」という。)
(二) 被告らの認否・反論
学校長の職務は、校務を司り所属職員を監督することであり(学校教育法二八条三項)、教頭の職務は、校長を助け、校務を整理し、及び必要に応じ児童の教育を司ることである(同法二八条四項)。原告が主張する不法行為は、すべて校長及び教頭等の職責上なすべき当然の職務行為としてその裁量の範囲内で行ったもので、何ら違法性はない。
いじめ1について。原告が記載した学年だよりの一部には政治性を帯びた記事があったため、不適切と考え、原告に対し差し換えを助言したものである。
いじめ2について。被告福澤が記事に問題はないと述べた後、他の教員から意見が出なかったために、話題が終了したものであり、被告福澤が、一方的に打ち切ったものではない。
いじめ3のうち、被告福澤が原告を非難したこと、宇津木が虚言を言ったことは否認し、その余の事実は不知。
いじめ4のうち、被告福澤が当該運営委員会に出席していなかったことは認めるが、同被告が青木いそみに原告の名誉を毀損する発言をさせたこと、被告福澤が原告を非難する発言をしたこと、被告福澤がPTA会長主催の会を開かせたことは否認し、その余の事実は不知。被告福澤はPTA会長の要請により原告と青木利男との話し合いの場にオブザーバーとして立ち会ったものであり、また、原告に対し、父母の意見も聞き、柔軟な対応をするよう意見を述べたに過ぎない。
いじめ5のうち、被告福澤が原告に診断書の提出を求めたことは認めるが、当時原告は朝礼に出なかったり、独断で授業内容を変更したり、正常の勤務状況ではなかったため、それが交通事故の被害によるものであるなら、他の職員の理解と協力を求めて勤務の軽減を図る必要があったため、診断書の提出等正確な報告を求めたものである。
いじめ6について。原告が配布した学級通信には原告をほめると同時に他の教員批判とみざるを得ない表現が含まれており、他の教員からの不満の声が高まった。一方父母やPTA会長からも原告学級の混迷を解決してほしいと要望が寄せられ、被告福澤は、放置すれば教員の士気の低下、父母の教員に対する信頼が損なわれる恐れがあると考え、また、昭和六〇年九月一八日の職員会議の席上で、被告関口が学級通信の記事につき釈明を求めても原告に反省の様子が全くなく、自発的行動による解決を望めないことが明白となった。そこで、被告福澤は、父母との意見交換を通し全教員に対する信頼を回復する目的で本件父母会を開催した。被告福澤の<1>の発言は、校内の教職員を批判する内容をそのまま学級通信で広めることは是認できないのであって、教師間に混乱が生じないよう配慮して行動すべきとの考えを述べたものであり、妥当なものである。
被告福澤が、原告が父母会に欠席した理由を組合活動であると説明(<2>の発言)したのは、被告福澤が、原告に対し、昭和六〇年九月二九日、父母会開催の予定を伝え、出席を要請したが、原告から出席の確約が得られず、学級の仕事あるいは組合活動で忙しいため出席できるかどうか分からないと述べていたためであり、被告福澤に原告を誹謗する意思はなかった。その他の原告が違法と主張する被告福澤の発言については、原告が被告福澤の言葉尻を捉えて非難するものに過ぎない。
いじめ7について。被告関口が父母会で司会をしたこと、父母会での被告福澤の発言を昭和六〇年一二月一一日の職員会議の議題としなかったことは認める。職員会議の議題は前日までに整理することになっていたが、原告の提案はこれを無視するものであり、また、原告の提案は職員会議の議題に適さないと判断したため議題として取り上げなかったものである。
その余の事実は否認する。
いじめ8について。被告福澤は、児童の作文を校長に断りなく新聞社へ提供したことを注意したものである。
いじめ9ないし11は争う。
2 原告の損害
(原告の主張)
いじめ1ないし11により、原告は、教育活動を萎縮・妨害され、児童、父母との信頼関係、校長や他の教員に対する信用を失墜され、名誉・声望・信用を著しく毀損され、学級運営を著しく妨害され、また、脅迫電話がかかり、悪い噂が広がるなどして、多大な精神的苦痛を被った。そのため、原告は、いじめ6がなされた父母会が開催された後一か月もたたないうちに五キログラムも痩せ、昭和六〇年一〇月二三日には重度の十二指腸潰瘍との診断を受け、いじめ10がなされた直後の昭和六三年八月にも右症状の診断を受けた。
原告に生じた右損害のうち、請求する精神的苦痛に対する慰謝料等の損害額は、左記のとおりである。
(一) (甲事件)
被告福澤、同関口に対し、連帯支払を請求する損害((1)<1>、(2)、(3))合計金二一三万三二〇〇円、被告福澤に対し、請求する損害金一〇万円((1)<2>)
(1) 慰謝料
<1> 被告福澤が行ったいじめ6、被告関口が行ったいじめ7(これらは共同不法行為に該当する。)については、金五〇〇万円のうち一六八万円を請求する。
<2> いじめ11のうち、被告福澤の行為については、金一〇万円
(2) 弁護士費用 金二〇万円
(3) 謝罪広告料 金二五万三二〇〇円(新聞社一社あたり金八万四四〇〇円)
(二) (乙事件)
被告羽村市に対し、支払を請求する損害((1)ないし(3))合計金四〇三万三二〇〇円
(1) 慰謝料
<1> いじめ1については、金一〇万円
<2> いじめ2については、金一〇万円
<3> いじめ3(但し、前記1(一)(3)記載の昭和六三年八月に宇津木が井上の前でした発言は除く)、4ないし9については、金一三八万円
<4> いじめ3のうち、右発言については、金一〇万円
<5> いじめ10のうち、
前記1(一)(10)記載の、被告関口による、職員会議の場等において原告を非難し、その主張を切り捨てた行為については、金五〇万円
同記載の宇津木による、原告を泥棒呼ばわりする発言(最終的には宇津木が認めた)については、金三〇万円
同記載の井上による、羽村市教育委員会に対するいじめ10に関する内容虚偽の報告書記載については、損害が(ママ)金一〇〇万円
<6> いじめ11については、金一〇万円
(2) 弁護士費用 二〇万円
(3) 謝罪広告料 二五万三二〇〇円
3 謝罪広告の必要性
(原告の主張)
虚偽の悪い噂が学校と地域に流布されたため、父母の間では原告は組合活動に熱心で児童一人一人のことに深く配慮した教育活動をする教員ではないと誤解する者も相当多数おり、かかる誤解を払拭するためには、被告らの謝罪広告が不可欠である。そして、名誉等回復のためには、別紙記載の謝罪広告を小作台小学校の父母の過半数が講読する朝日、読売、毎日の各新聞の多摩版及び東京都羽村市教育委員会発行「羽村の教育」、同羽村市立小作台小学校発行「学校だより」に掲載することをもって相当とする。
4 被告福澤、同関口の抗弁
(一) 被告福澤、同関口の主張
原告主張の前記1(二)(6)(7)(11)(但し、(11)については、被告福澤の行為)の各行為は、いずれも被告福澤、同関口が公務員の職務として行ったものであるから、仮に右被告らの行為に違法性があり、それにより原告が損害を被ったとしても、小作台小学校の設置者である被告羽村市のみが損害賠償の責任を負い、右被告らは責任を負わない。
被告羽村市により損害の填補がされれば、原告の保護は図られ、それ以上に公務員の不法行為責任を認める必要性も存しない。
(二) 原告の反論
被告の主張は否認する。本件は職務に仮託し、或いは職務と競合した私人の不法行為である。
また、教師は、教育に関わる公務員としての独立性、中立性から、一般の公務員とは異なる身分の保障があり(教育公務員特例法)、その反面として、自己の行為に責任を負うべきであり、裁量権を濫用した場合には、教師は個人としての不法行為責任を負う。
更に、謝罪行為には、非代替性があり、不法行為者による謝罪がされなければ、児童や父母との信頼関係が保たれない。
5 被告羽村市の抗弁(消滅時効)
(一) 被告羽村市の主張
原告が本件各不法行為の加害者及び損害を了知してから三年経過し、これにより、消滅時効が完成した。
被告羽村市は、平成三年七月一五日の第一五回及び平成八年六月三日の第四〇回口頭弁論期日において、右消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
(二) 原告の主張
被告福澤らのいじめは、原告に対し、連続的にいじめ続け、原告の教育活動を妨害しようとするものであり、いじめ1ないし11は分断することができないものである。したがって、最後にいじめが行われた昭和六二年から時効期間が進行する。
また、原告が損害が拡大していることを知ったのは昭和六三年であるから、損害の発生を知ったときから三年を経過する前に訴状を提出したので、時効は中断している。
6 訴えの変更に対する異議
(被告らの主張)
いじめ10、11の主張は、原告が平成六年一〇月一七日第三一回口頭弁論期日において訴えの追加的変更をしたものであるが、従前の請求と請求の基礎を異にするうえ、審理の終結段階になって右のような訴えの変更を許すと、審理が遅延し、訴訟経済に反する。
したがって、右訴えの変更は不適法であって、許されるべきでない。
第三当裁判所の判断
一 争点6(訴えの変更に対する異議)について判断する。
いじめ10、11の主張は、被告福澤、同関口、井上、宇津木の原告に対するいじめの一環としてなされたものと解されるところ、訴えの追加された部分は従前の請求との関係において、主要な争点ないし争点の背景となった事実及び証拠の共通する部分が多いと考えられ、本件訴えの変更は、請求の基礎に変更がないというべきである。
そして、いじめ10、11の主張内容からみて、本件訴えの追加的変更により著しく訴訟手続が遅滞するとはいえない。
したがって、本件訴えの追加的変更は適法である。
二1 いじめ1について
(一) 被告福澤は、昭和五九年二月、宇津木を介して、原告の執筆した同年三月一日付の学年だよりの原稿を入手し、右学年だよりの中の、昭和五九年二月の羽村町(当時)の議会だよりのコピーを切り張りした部分と、議会で、町内の小学校の学芸会や作品展示会において残酷な内容や反権力的内容のものがあり、指導面において今後配慮していきたい旨のやりとりがなされたことについて、「教科書にのっている教材でさえも、反権力的で、配慮すべきという。いったいどういう教育をすればよいのでしょう。私は親として、教師として、不安でいっぱいです。今、教科書の検定が強化され、教科書法が制定されようとしています。また、先生に、上、中、下をつける教員免許法が制定されるそうです。教育改革のゆくえは?」というコメントを原告が付記した部分を他の記事に差し替えるよう指示した。
被告福澤としては、議会だよりについては、既に羽村市の全家庭に配布されているものであり、再度配布する必要はないこと、教科書法案、教員免許法の改正が、組合誌の記載内容であればともかく、学年だよりとしての記載内容としてはふさわしくなく、学年度末の学年だよりであったことから、ほかにふさわしい記載内容があることを考慮して、該当部分の記載を書き換えるよう指示したものであり、また、学年だよりは、当該学年の担任の教員全員の持ち回りで執筆してされていたものであって、その最終的な文章の責任は校長が持つべきものであった。(<証拠・人証略>)
右認定の事実によれば、被告福澤が右学年だよりの差し替え・書き換えの指示を行ったことについては、校長の立場・責任上相当な理由があったものと認められ、被告福澤の右指示は、学年だよりの発行・内容に関する校長としての職務行為の裁量の範囲を逸脱した違法な行為とはいえない。
なお、原告は、宇津木が、原告がごみ箱に捨てた前記学年だよりの原稿を拾って被告福澤に渡した旨供述するが(<証拠・人証略>)、仮に右事実が認められるとしても、右行為は、被告福澤が、原告の執筆した学年だよりを検閲する目的で、宇津木に指示してごみ箱の中を調べさせたからなされたとまで認めるに足りる証拠はない。
(二) 昭和五九年五月頃、原告がいじめに関する新聞記事の切り抜きを印刷したものを放置していたところ、被告福澤がこれを入手し、原告に使用目的を尋ねた。(<人証略>)
しかし、右一事をもって被告福澤の言動を違法視することはできない。
2 いじめ2について
昭和五九年六月二八日付のPTA運営委員会ニュースに、小作台小学校の教師川津のコメントとして、「移動教室、修学旅行に父母の見送りが多数ありますと、教師もやりがいがあるのではないでしょうか。今回は少ないようでした。川津先生談。」という記事が掲載された。
原告は、父母の見送りと教師のやりがいとは無関係である、父母が見送りに来られない子供に対する配慮に欠ける、右記事が全教員の意見と受取られかねないなどとして、同年七月一一日の職員朝会において、PTA運営委員会の原稿の執筆には注意してほしいと意見を述べたが、被告福澤は、右記事に特に問題はなく、朝会は討論の場ではないとして、それ以上議題にはしなかった。(<証拠・人証略>)
右認定によれば、被告福澤は、原告の意見に同調せず、朝会は討論の場でないとして原告にそれ以上の発言をさせなかったことが認められるけれども、被告福澤の右対応は、原告を公然と差別したものとは到底言えないし、被告福澤の職員朝会における議事進行上の裁量を逸脱した違法な行為ともいえない。
3 いじめ3について
昭和五九年七月頃、小作台小学校の児童に対し、ソシオメトリックテストが実施された。しかし、宇津木が、昭和六〇年三月、原告の担任する四年一組の児童に対し、右テストの結果嫌われているとされた児童の名前がそれとなくわかるような言動を取ったため、その児童の父母の知るところとなり、原告は、被告福澤にその対処方を求めた。そこで、被告福澤が宇津木に事情を聴取したところ、宇津木は、自分が発表したわけではないとして否定したため、被告福澤は、原告と宇津木の人間関係が以前から良くなかったことなどから間に立った形で、原告と宇津木間の円滑な人間関係を図ることにも配慮し、原告を抑える一方、宇津木に対しては、それ以上追及せず、ソシオメトリックテストの扱いは慎重にするように注意した。(<証拠・人証略>)
一般に、ソシオメトリックテストの結果発表は、当該児童の人権や当該児童へのいじめに関連する教育上極めて不適切な行為であることは明らかであるところ、右認定の各事実によれば、少なくとも宇津木による前記結果発表の疑いが生じ、被告福澤はこれを認識したことが認められるのであるから、被告福澤としては、当時、四年一組の全児童から事情を聴取するなどして、右疑いにつき事実の解明をしたうえで、宇津木にしかるべき措置をとることも可能であったということができるが、右のとおり、問題が当該児童の人権等に関連するソシオメトリックテストの結果発表に関するものであることからすると、全児童から事情を聴取すること等により事を大げさにすることは必ずしも適切な処置であるとはいえず、むしろ、被告福澤は、右認定のとおり、校長として、教員らが円滑に職務を行えるようにとの配慮から、宇津木と原告の人間関係の円滑を図り、宇津木に対しては、ソシオメトリックテストの扱いについての一般的注意をするに留めるという方法をとったということができる。その際、被告福澤が原告を非難するような態度をとったという事実も認められない。したがって、被告福澤の右対応・措置には相当な理由があったと認められ、右対応・措置に違法性はない。
また、原告は、宇津木が、その後、井上に対し、自分はソシオメトリックテストの結果を原告にしか知らせておらず、(一旦自分が右結果を発表したことを認めていたのに)児童には発表していない旨話し、右発言は、宇津木でなく、原告がソシオメトリックテストの結果を漏らしたが如き虚言である旨主張するが、宇津木は井上に対し、右の如き発言をしたかのようにも窺えるものの(<証拠略>)、宇津木の右発言は直ちに、原告がソシオメトリックテストの結果を発表したかのごとく受取られるような内容のものとはいえず、他に、宇津木が原告を陥れるために井上に虚言を言ったと認めるに足りる証拠はない。
4 いじめ5について
昭和六〇年九月一八日、原告は交通事故に遭い、肋骨一本を骨折する怪我を負った。当時、運動会の準備・練習等で教員らが繁忙を極めていたところ、同日の職員会議において他の教員が原告の運動会の担当事務の交代を申し出たり、原告が、右事故による負傷のために、翌一九日の午後と同月二〇日の午前に休暇を取ったことから、被告福澤は、事務分担の変更の必要があるか否かを確かめ、また、他の教員に対する説明のために、同月二〇日に原告に対し診断書の提出を求めた。その後、被告福澤は、原告の症状がさほど重いものでないことを知り、それ以上に診断書の提出を求めなかった。(<証拠・人証略>)
右認定の各事実に徴すれば、結局のところ、被告福澤は、校長の職責として、原告の事務の分担の変更が必要か否かを検討しなければならなかったところ、原告の負傷の程度を正確に把握するために診断書の提出を求めたものであるから、仮に他の教員に対して同様のケースで診断書の提出を求めなかった例があったとしても(なお、原告の指摘する、被告福澤が、他の教員が切迫流産で入院した際には診断書の提出を求めなかったことについては、右教員が入院期間中有給休暇をとっていたものであるから(<証拠略>)、被告福澤が右教員に診断書の提出を求めなかったのは当然である。)、被告福澤が原告に対し右診断書提出を求めた行為をもって原告だけを違法に差別的に取り扱ったものとはいえない。
5 いじめ4について
(一)(1) 昭和六〇年四月、原告の担任する四年一組の父母の中から、青木利男がPTAの学級委員に選ばれた。同年五月九日、青木利男は、PTAの一年間の活動についての父母の要望についてのアンケートの配付を原告に依頼した。アンケートの結果、親子行事を望む意見が多かったため、青木利男は、大凡の計画をたて、父母にアンケートの結果を知らせようとした。しかし、同月一二日、原告は、青木利男宅を訪れ、青木利男の妻に親子行事に反対との内容を書いた紙を渡し、担任の意見をクラスの児童の父母に伝え、原告の作成したアンケート用紙に従って再度アンケートを取り直すよう求めた。青木利男は、原告の意見書が親子行事に反対の立場を明らかにしたものであるうえ、アンケートの内容が、「クラス全員の親が参加していた、自分だけが参加できず(仕事、用事、病気、死亡等)泣き出しそうな我が子の姿を想像してみてください、A我が子にとってプラスだと思う、B我が子にとってマイナスと思うが、仕方がない、やっても良い、Cマイナスであり、やってほしくない、Dその他」などという一方的で、親子行事に反対する回答に誘導するかのような内容となっていたため、アンケートの配付に難色を示した。
その後、数回にわたり、原告と青木利男との間で話し合いが続けられたが、原告が親子行事に反対の立場をとり、自己の作成した意見とアンケートの配付にこだわり、青木利男は親子行事を推進する立場をとったため、話し合いは平行線に終わった。(<証拠・人証略>)
(2) 昭和六〇年六月八日、第一回PTA運営委員会が開かれ、青木利男の代理人として同人の妻青木いそみが出席し、<1>クラスのアンケートを取ったが原告からストップがかかっているのでまだ決まっていないと報告し、PTA会長から説明を求められると、<2>原告が作成した一方的な内容のアンケートで取り直しをするように求められ、<3>アンケートとともに渡されたプリント(後記「富士見小への手紙」)の中に、親が教師に意見を述べると子供に対して風当たりが強くなるとの記載があり、とまどっていると説明した(以下<3>を「青木発言」という。)。原告は、同年七月二日、青木発言を伝え聞き、青木利男に事実の訂正を求めるようになった。(<証拠・人証略>)
(3) 昭和六〇年七月三日、原告は、「富士見小への手紙」(同年二月に原告が、原告の子供の通う小学校に出した、親子行事に反対する原告の意見の記載された手紙を、当時原告が担任していた学級の学級通信として出したもの)や原告の意見書、アンケートをPTA通信の形でクラスに配布し、同時にPTA会長、副会長にも届けた。
右PTA通信、特にアンケートの内容について、四年一組の父母から羽村町教育委員会(当時)に通報があったため、被告福澤は、同月五日、アンケートの内容を原告に確認した。
同月八日、右PTA通信について、PTA会長、副会長、学級委員、クラスの運営委員、原告による話し合いが行われた。席上、PTA会長は、原告の作成したアンケートの内容が一方的で偏っていると非難したが、原告は、担任としての意見は当然言うことができると主張し、話し合いは平行線をたどった。そして、原告は、同年六月八日の青木発言は誤っているから、翌七月九日に開かれるPTA運営委員会で謝罪してほしいと要求した。
同月九日、第二回PTA運営委員会が開かれ、被告福澤及び被告関口が出席した。原告は、翌一〇日、青木利男に、青木発言についてPTA運営委員会で釈明したかと尋ねたが、青木利男は、「『いろいろご心配をおかけしたが、話し合いをして良い方向に向かっている。』と代理人(青木いそみ)に発言させた。」と答えたところ、原告は、青木利男に対し、それでは話しが違うと言って、PTAの場での謝罪を強く求めた。同日夜、四年一組のPTA懇談会が臨時に開かれ、四年一組が学年単位で行われるPTA行事の鱒釣り大会に参加することが決定した。
同月一一日、定例の父母会が開催され、あわせて四年一組においては、学級PTAの話し合いも行われた。(<証拠・人証略>)
(4) 昭和六〇年七月一三日、原告は、「事実経過の確認」と題する書面を四年一組の父母に配付して、父母らに対し、原告と青木利男との対立について原告に正当性があることを主張した。
同月一九日、PTA会長と青木利男の求めにより、PTA会長が司会を務め、被告福澤と同関口立ち会いのもと、青木利男と原告が校長室で話し合いを行った。青木利男は、原告が同月一三日に「事実経過の確認」と題する書面を配布したことに抗議し、原告は、青木発言についての謝罪を求めたが、PTA主催の親子行事についての話し合いはつかなかった。被告福澤は、話し合いに加わらなかったが、最後に、「原告が反対意見を言うから親子行事ができないという学級の状況は問題ですよ。」と意見を述べ、既に四年一組を含めたPTA行事が決まっていることから、今後の行事に意を向けたらどうかという趣旨の発言をした。
しかし、原告は、その後に行われたPTAの親子行事には参加しなかった。(<証拠・人証略>)
(二) 以上の各事実に基づき検討すると、原告と青木利男らは、PTA主催の親子行事のあり方をめぐって意見が対立し、その話し合い中、前記第一回PTA運営委員会において、青木発言がなされたものであるが、そもそも、PTA運営委員会については、校長としての被告福澤は内容や運営に関与する権限がなかったばかりか、昭和六〇年六月八日に開かれた前記第一回PTA運営委員会に何らかの形で関与して青木いそみに青木発言(それが原告を誹謗中傷、原告の名誉を毀損したかどうかは別として)をするよう仕向けたなどと認めるに足りる証拠はない。また、被告福澤は、遅くとも前記第二回PTA運営委員会において青木発言を知ったが、その後も青木発言ないし青木発言の原告への影響等について特段問題とせず、却って同年七月一九日には、父母は親子行事をやりたいというのに担任が反対するのはおかしいなどと発言したことは、前記認定のとおりであるところ、右の被告福澤とPTA運営委員会との関係に鑑みると、被告福澤が青木発言等を特段問題としなかった(その対応をPTA運営委員会等に委ねた(<人証略>))ことをもって、被告福澤が原告に対する父母の信頼を損ねさせたとは直ちに言えないし、右発言も、被告福澤がオブザーバーとして原告に意見を述べたものであり、違法な発言とは言えない。したがって、いじめ4に関する原告の主張には理由がない。
6 いじめ6、7について
(一)(1) 原告は、昭和六〇年の夏休み直前から、親子行事に対する反対の意見等を掲載した学級通信を立て続けに数回配付したが、父母から、原告の発行する学級通信が面白くないとの苦情が学校に寄せられたため、同年九月一一日、被告福澤は、原告に、学級通信の内容を考慮するよう指示した。
しかし、原告は、被告福澤の指示に反発して、同月一二日、父母からの賛否の意見全てを掲載すると言い、同月一三日、一七日、二〇日、二六日付で、父母の意見の中で、原告を支持し、青木利男、被告福澤、PTA会長を批判する意見と、原告について悪い噂をたてられているとの指摘が書かれたものを抜粋して相次いで学級通信に掲載した。
一方において、原告は、同月二四日、原告の発行する学級通信の内容は、父母の意見に仮託して学級委員をいじめるものである、との父母の意見が掲載された学級通信も発行したが、原告は、学級通信において、そのような父母の意見は原告に対する誹謗、中傷に過ぎないという父母の意見が何通も寄せられていると学級通信に書いて、原告自ら原告に反対する意見を批判した。(<証拠・人証略>)
(2) 被告福澤は、原告の一連の学級通信の発行、特に昭和六〇年九月一二日、同月一七日付の学級通信に左記の記載があり、原告が右学級通信を全職員に配布したためにそれを読んだ他の教員から苦情が来て、同月一八日の職員会議においても問題となったことから、同月二九日、右学級通信について何らかの対応が必要であると考え、父母会を開催する際には原告も出席してほしいと求め、同年一〇月七日、四年一組の父母会を同月一六日に開催する旨の通知を配付した。(<証拠略>)
記
昭和六〇年九月一二日付学級通信
「玉置先生の姿が、明るく、まっすぐ、そして、近くに見えます。私にとって、先生、教師とは、遠い存在でしかありませんでした。教師とは、ごく普通のサラリーマン、それとも、もっとはっきり言えばデモシカ先生…そういったたぐいの先生方がほとんどではないでしょうか。その中で、やっと身近に見えました玉置先生!」
同月一七日付学級通信
「…ところで、玉置先生の指導方針『一人ひとりを大切にする。』は“教師”としての基本姿勢であると思います(小作台小にはめずらしいかもしれません。他の学校にも少ないと思いますが。)。また、考えて判断して行動する、相手の立場を考えるは、人間を育てる上で最も大切なことであり、言葉だけでなく、細かい生活の場面の中で指導して下さる先生に、大変感謝しています。我が子を見て、ずいぶん変わってきています。先生方全員に、このような基本姿勢でのぞんでほしい、と強く思います。」
同月九日、被告福澤は、職員会議において、右の四年一組の父母会を開催するまでの経緯を説明したが、原告は、被告福澤が原告に断りなく四年一組の父母会の開催を決定して父母に通知を出したことに抗議した。同月一六日、被告福澤は、原告に対し、同日開催の父母会への出席を要請したが、原告は、父母会の席で被告福澤や父母から自己に対する非難が及ぶのを怖れ、出席を拒んだ。被告福澤、同関口は、父母会開始直前まで原告を探したが、見つからなかったため、原告不在のまま父母会を開催し、被告福澤は、出席した父母に対しては、原告が父母会に出席しなかった理由を、原告が組合活動に参加していると説明したうえ、種々の発言をした。
被告関口は、右父母会の司会を務め、文書で出すと誤解をされる面が出てくるのではないかと言って、原告の学級通信の発行を中止させることを示唆した。(<証拠・人証略>)
(3) 同年一二月一〇日、原告は、「PTAのあり方と、学級経営への管理職の不当な圧力」と題する、被告福澤が同年一〇月一六日に父母会を開いたこと、原告が欠席した理由を組合活動と説明したことへの抗議、右に関連する三六項目の議題を翌日の職員会議にかけるよう要求する内容の記載された書面を全教員に配布した。
同月一一日の職員会議において、原告は、右書面に基づき、全教員に討議を求めたが、被告関口は、そのようなことは議題にならないといって、原告の要求を拒絶した。(<証拠・人証略>)
(二) そこで、右認定事実に基づき、まず、被告福澤が原告の同意を得ることなく昭和六〇年一〇月一六日に父母会を開催したことが職権濫用として原告の教育活動を妨害する違法な行為となるか否かを検討する。
右認定によれば、原告は、親子行事反対及び青木発言批判の意見を学級通信に掲載し続けたことから、父母からは、昭和六〇年九月には、右学級通信の内容について、不満の声が上がり始めているという状況であったが、原告は、父母から出た賛否それぞれの意見をそのまま学級通信に掲載して意見交換を図るとして、原告に対する賞賛の言葉を並べることにより、他の教師に対する批判とも読めるような父母の意見を掲載したため、今度は、他の教師からも反発を招く結果となった。そのため、被告福澤は、他の教員に対する信頼を回復し、学級の混乱を解消することを主目的として、父母会を開催したということができる。
そうだとすると、被告福澤は、混乱した学級運営をとりまとめつつ、小作台小学校の教員全体の信頼を維持するために父母会を開催したものであり、担任である原告の同意が得られなかったとしても、原告の教育活動・学級運営を害するものでもなく、右開催は校長としての職務行為の裁量の範囲内の行為であり、被告福澤の右父母会開催の措置に違法性はない。
進んで、被告福澤の右昭和六〇年一月一六日開催の父母会における発言内容について順次検討する。
(1) 被告福澤は、原告の昭和六〇年九月一二日付の学級通信を引用して、他の教師が自信をなくした、と言うのを聞いて、そのように捉えられることも仕方がない、として、「もっと極端に言えば、私は、こういうものだったら、私が担任だったら、握りつぶしますね。自分がほめられてます。いい気がします。だけどね、他に、自分の同僚が批判されている父母の意見は、握り潰すのが常識。私だったら握り潰す。こういうにされていたら、私だったら握り潰しちゃうでしょう。あるいは、握りつぶさなければ、校長やなんかに、相談したんじゃないかなと思います。」「私がですね、見ました文章の中に、学校の他の教員に対する批判が出ていました。これを、あの、私、自分の部下職員がこういう批判されているということに対しては、何らかの形で皆さんに誤解を解いて頂かなくてはならない。というふうなことで、今日、お集まり願ったわけです。」「あえてね、他の先生を引き合いに出してもらっては困る、ということです。私は自分の職員の校長としてですね、もう少し他の先生方も信頼してほしい、ということです。」「ここなどは、小作台小学校の他の先生がですね。少なくとも、子供一人一人に対する配慮が非常に少ない。というふうに私は判断せざるをえない。」と発言した。(<証拠略>)
被告福澤の右発言は、どの学級通信が問題なのかという父母の質問に答えたものであり(<証拠略>)、右の発言中の「父母の意見を握り潰す。」とのいささか適切を欠く表現にしても、他の教員の名誉も考慮すべきであるとの趣旨を間接的に述べたものと理解されるのであって、右部分を含め、右発言は全体として、原告の名誉を失墜させたり、原告を侮辱するような発言であるとはいえない。
(2) 被告福澤は、「四年一組の担任の先生は、今日は是非出て頂きたい、と言ったんですが、組合の方の活動があるということで、出られません。欠席する、ということです。」と発言したが、原告は、当日組合活動に参加していなかった。(<証拠・人証略>)
しかし、前記(一)(2)に認定の父母会が開かれた当時の状況及び原告が欠席するに至った事情に照らすと、被告福澤は、父母から、校長の一存で父母会を開き、原告が父母会に出席しないことの理由を聞かれて、とっさにそのような発言をしたものと推測され、被告福澤が、ことさらに虚偽の事実を伝えて父母の原告に対する信頼を失墜させる目的を有していたと認めることはできず、被告福澤の発言に誤った部分があるからといって、違法とまではいえない。
(3) 被告福澤は、父母から、原告の発行した学級通信についての校長としての見解を聞かれて、学校から配られるプリントは「全て学校長の責任において出している。」「原稿の段階で、私が見て、よろしいかどうかということをチェックしなけりゃいけない。最終的な責任はこちらにまいります。ですから、ずっと、他の先生方にも、学校の先生全体にもいつもこう言ってます。けれども、実は、この(原告の発行した学級)通信に関しましては、事前に見せられたこともなく、場合によっては、私の手元にも来ない、ということがままあるわけです。」と発言した。(<証拠略>)
右発言は、原告発行の学級通信の最終的な責任の所在を明らかにした上で、右学級通信に被告福澤のチェックが働いていなかったことを話したものであり、別段右学級通信のみそうであるとまで述べてはいないから、右発言は虚偽で、原告を中傷する違法な発言とはいえない。
(4) 被告福澤は、父母から、被告福澤が原告に対し、学級通信の内容について注意したことについて、原告から「はい」という返事をされたか否かを尋ねられた際に、「私自身、今日、ここでですね、玉置先生をどうこう言うつもりは毛頭ないわけです。ですから、それはお断りしておきたい。今のような、たびたび注意したけれども、指示をしたけれども、それに従わない、ま、本来なら、職務命令違反と言うことになるわけですけれども、そんな固いこと言ったら、世の中ギクギクしますから、結局はまあ、何回出しても、ですね、『これは不穏当ですよ。』ということを再三注意するより、しょうがないだろう、私が今までやってきた中で、玉置先生は、『はい、じゃあ、わかりました。』といった言葉は聞いたことはありません。」と答えた。(<証拠略>)
右発言は、原告発行の学級通信の内容に関する校長としての監督について父母から尋ねられたものに対する回答であるところ、前記(一)(1)に認定のとおり、被告福澤が、原告に対し、昭和六〇年の夏休み頃に発行された学級通信について父母から苦情が来ている旨話し、内容を考慮するよう指示したのに対し、原告がこれを聞き入れなかった経緯があった上での発言であるから、右発言も又、虚偽で原告を中傷する違法な発言とはいえない。
(5) 被告福澤は、父母らが、同年六月八日のPTA運営委員会での青木発言の妥当性について議論をしていたところ、「玉置先生は」「父兄という立場でもって」娘が通っている富士見小学校へ出した手紙に「『親子行事で授業中にやるのはおかしいから、土曜の午後か日曜にすればよいのに、と独り言を言いましたら、お母さん、変なことを言わないでよ。授業がつぶれて嬉しいのだから、と娘に怒られてしまいました。私が言ったために変更になったら、娘への風当たりが強いと思いますので…』」とこう書いてある。で、こういうことをすると、これはもう、事前に読まれてしまったわけですから」「これを読んだ方、ま、委員など、読んでたんです。だから、こういうこと(青木発言)を言ったんでしょう。」と発言し、父母が、「でも、それはよく読めば、子供同士の風当たりだと思うんですね。授業がつぶれて嬉しいのに、言ったために授業があったんじゃああの…」と言ったのに対し、被告福澤が「それは、解釈はいろいろあると思います。ですから、『それは誤解ですよ。』と玉置先生の方で言えばそれですんじゃうんです。」と答えた。(<証拠略>)
被告福澤が青木発言に対する対応をPTA運営委員会等に委ねたことは前記5(二)に説示したとおりであり、被告福澤は、その後も原告が青木発言を問題にしていたことは承知していたけれども、右のとおり、父母らが青木発言について校長の意見を求めたため、右発言は、父母に対し、校長としての見解を示すものとしてなされたということができ、右発言の動機から見ても、又、その発言内容自体も何ら、青木発言を擁護するなどして原告を非難中傷するものではなく、原告の名誉を毀損し、もしくは名誉毀損を助長する違法な発言とはいえない。
(6) 被告福澤は、「個人的な意見として考えていただきたいのですが」「来れない親の子をですね、来た親が抱えていかなければならない、ね、来れない子がいたからやらない、という、全てが参加できなけりゃやらないんだ、という考え方は、僕は、あまりに固い硬直した考えだと思うんですね。三〇人の子がいる。一〇人しか親が参加できなけりゃあ、一〇人の親と先生が、子供を抱えていくべきでしょう。それでこそ初めて、我が子だけでなくて、大勢の子供達にかかわりあっていく…僕は個人的にはそう思いますね。それを、あとの二〇人がかわいそうなんだから、という発想は、僕はあまり、とりたくない。」と発言した。(<証拠略>)
右発言は、被告福澤が、校長が運営に介入する権限を有していないPTA活動について、校長としての個人的意見を述べたものであり、原告の考え方を批判してはいるが、それ以上に、原告の名誉を毀損したり、侮辱したりする内容を含んでいるものとはいえず、違法な発言とはいえない。
(7) 被告福澤は、PTA活動の親子行事の問題について、学校行事、教育活動と関係がないが知っている限りにおいて話すと断ったうえで、学級通信は「膨大なものが出ているわけですが」、親子行事の問題は、「これほどまでに騒ぎ立てなけりゃならなかった問題だろうか、ということを実は考えるわけです。」「学級経営においては、学級のみなさんと先生と一体になってなければならないのに、こういう状況にあってはですね、再度、玉置先生も学級経営が大変難しいだろうというふうに感じるわけです。そういう意味で、どうぞ、あの、これから、また、あの、ご意見が出たりなんかするかも知れませんけど、温かくお互いの気持ちを大事にして、しなやかな、しなやかな、受け入れる、といいますか、しなやかな心をもってお互いにご意見を出し合ってみてください。」と発言した。(<証拠略>)
右発言は、一部に、原告が、親子行事のことで、学級運営がうまくいかなくなるまで議論を進めることなどの原告の対応に対する批判が含まれているけれども、全体の趣旨としては、原告と父母が協力してPTA行事を進めて欲しいとの要望を述べたものであり、原告を非難中傷するような違法な発言とはいえない。
(8) 被告福澤は、「一つのものに(固執)することは、いずれは摩擦を大きくするだけだろうと思うんですね。もう少し柔軟な考えを持っていただきたいな、というふうにお願いする次第です。」と発言した。(<証拠略>)
右発言は、親子行事に関する原告の意見・対応に対する批判的部分を含んではいるが、これを前提に、右意見・対応に対する原告への希望を述べたものであるから、何ら、原告を非難中傷するような違法な発言とはいえない。
(四)(ママ) 被告関口は、前記(一)(2)のとおり、前記父母会の司会を務め、その終わりの方で「この種の問題はこれからはやらないような方向の方が良いのではないか、と思っているんです。文章にすると、ちょっとした言葉で行き違いが出る。ここでなら何とでも言えますけど、例えば、先生が『前向きに』と書いてありましたけど、文章にすると、今までは前向きではなかったのか、ということになるし、だんだん発展してしまうんですね。今まではそういうことの繰り返しのような気がします。」と発言もしたが(<証拠略>)、右(二)に検討したように、被告福澤の右父母会を開催した措置、右父母会での発言内容に違法性が認められない以上、被告関口の司会進行及び発言が、被告福澤の右行為を支持・幇助した面があったとしても、右司会進行等に違法性を認めることはできない。
また、被告関口が、右発言により、原告による学級通信の発行を見合わせるよう示唆したことも、前記(一)認定の、右学級通信発行により学級を混乱させることとなった事実関係に鑑みると、右発言・示唆には理由があり、原告の学級運営を妨害するものでもなく、違法とはいえない。
更に、昭和六〇年一二月一一日の職員会議において、被告関口が、原告が討議を要求した「PTAのあり方と学級運営への管理職の不当な圧力」と題する約三六項目にわたる事項を議題として受け入れなかったことは前記(一)(3)に認定のとおりであるが、右事項については、前日までに議題として整理されておらず、内容的にも量的にも、職員会議で取り上げるにはふさわしくないとして、「ぽっと出されましたが、こういう中身は職員会議の議題じゃないと思うんです。」など発言し、被告関口はこれを議題として取り上げなかったことが認められるから(<証拠・人証略>)、右発言・議題不採用には理由があり、原告の教育活動を妨害するものでもなく、何ら違法とはいえない。
7 いじめ8について
昭和六一年二月六日の朝日新聞に、いじめに関する社説が掲載された。原告は、これを題材として担任する四年一組の児童に作文を書かせ、「いじめを考えよう」という文集を作り、同学年の児童全員に配布した。そして、原告は、朝日新聞社にも右文集を送付し、同年三月一三日の朝日新聞に、右文集の紹介記事が掲載された。
被告福澤は、原告に対し、学校で指導して児童が書いた作文を校長の事前の了承を得ることなく新聞社に送付したことを注意した。(<証拠・人証略>)
原告は、被告福澤は、右記事掲載につき、いじめに関する訴訟事件が生じていた羽村一中校長から抗議があったとして、原告に対し、「何でこんなものを作ったのだ。」と言って怒った旨供述するが、右供述は、右証拠と対比して採用することができない。
右認定事実によれば、被告福澤は、右注意により、原告がいじめを題材とした右学級文集を作ったこと自体を問題にしたものではなく、ましてや、原告のいじめをなくすための教育活動を妨害したものとは到底言い難いから、被告福澤の右言動は違法ではない。
8 いじめ9について
原告は、昭和六一年一月六日、担任する四年一組の学級通信で、自分の中学校三年生の娘の通う羽村二中の父母会が、親子で並んで座る形式をとって行われたことを批判する文章を書き、父母に配布した。
原告は、原告宅に家庭訪問に来た羽村二中の教員に右学級通信を渡したため、同校の教員らの知るところとなり、羽村二中の校長と教頭から、被告福澤に対し、生徒の父母として、父母会のあり方に意見や批判を言うのは自由であるが、小学校の教師という職業を利用して、担任する学級に配布する学級通信に、右の批判的文章を記載することは公私混同ではないかという抗議がされた。そのため、被告福澤は、同年五月、羽村二中の校長らに謝罪したうえ、原告に対し、原告発行の学級通信が羽村二中に渡り、羽村二中から抗議された旨述べ、学級通信の発行にあたって、公私混同のないよう注意し、他の教員に対しても、一般的な注意として同様のことを言った。(<証拠・人証略>)
被告福澤の原告に対する右発言及び注意は、羽村二中からの抗議の事実を伝えつつ、羽村二中からは原告の公私混同とみられることを戒めたものであって、原告を非難したり、その教育活動を妨害したものではなく、違法とはいえない。
9 いじめ10について
(一) 家庭科担当の宇津木は、昭和六三年七月六日、原告が担当していた五年二組の三、四時間家庭科の授業で、児童の一人が、給食で残った牛乳を持ってきて原告に飲ませたことがあると言ったところ、「給食の牛乳は親が働いたお金で買ったものであり、給食の残った牛乳を飲む先生はいけない。」との趣旨の発言をしたところ、右発言が父母の耳に入り、同日頃、父母から被告関口宛に「宇津木先生は原告を泥棒扱いにしている。」旨の電話があったため、被告関口が翌日宇津木に事実の確認をしたところ、宇津木は「そんなことは言っていない。」と否定した。
(二) 原告は、昭和六三年七月一三日の職員会議において、宇津木の右発言につき、児童から聞いたところによれば、「原告は給食の残った牛乳を飲む悪い先生である。」旨の発言だとして、話し合いを提案し、被告関口の意見を求めたが、同被告は、そのような事柄は職員会議の議題にすべきでなく、答える必要はないとして、議題にさせなかった。なお、原告(ママ)宇津木は右職員会議においても「そういうことは言っていない。」と発言した。原告は、更に、自分の主張する事実を証明するため、児童の自宅に電話をかけて事実を確認する一方、同月一四日、担任する学級の児童に、作文を書かせ、そのうち、一〇名の児童の作文を印刷して、全職員に配布した。
同月一九日、井上、被告関口、原告、宇津木の四名が話し合いをしたが、被告関口は、原告に対し、「子供の話が信用できるか。裁判にしたらどうか。裁判にして子供を証人にすると思うか。」という趣旨のことを言った。
原告は、同月二一日、羽村町(当時)教員委員会及び東京都教育委員会に対し、「管理職に、校内の問題でも、裁判で解決するような指導をされているのでしょうか。見解をお伺いしたいと思います。」などと書かれた手紙と、前記文集を送付し、更に、東京都教育委員会に、意見を投書したが、東京都教育委員会は、学校内の問題として処理するよう告げるにとどめた。井上は、原告が右のような投書を外部に対して行っても解決にはならないと諫め、話し合いによる解決を促し、同年八月八日、一一日に宇津木を交えて話し合いの機会を持ったが、原告は、宇津木に対し、謝罪を求め続けるのみであった。
同月一二日、井上は、羽村町(当時)教育委員会に対し、右事実経過と井上のとった措置の記載された「玉置教諭の投書に対する報告書」を提出した。
原告が宇津木に対し、あくまで事実を認めないなら子供を連れてくる、などと言って児童を巻込んでまで謝罪を求め続ける姿勢をとったため、宇津木は、同年九月一日、五年二組の教室で、児童に対し、「玉置先生のことを悪い先生だなんて、本当に間違ったことを言ってしまった。玉置先生はとってもいい先生で、みんなも表現や習字がとっても上手、玉置先生、本当にごめんなさい。皆さんにも悪いことをしてしまったと思います。ごめんなさい。」と言った。また、同月二日の職員会議においても、右謝罪の件が報告された。(<証拠・人証略>)
(三) 右認定の各事実に基づき、前記家庭科の授業における宇津木の発言を検討するに、まず、前記認定の右発言は、残った牛乳は、飲まなかった人の親が働いて出してるお金で買ったものなんだから先生がそんなことをしてはいけない、という趣旨に理解され、これ自体は一個の見解と言えるところ、これ以上に宇津木が右発言に加えて、ことさらに、原告を悪い先生といったり、泥棒呼ばわりしたかについては、原告がこの旨述べているところは、あくまで、児童からの伝聞であるし、この点、(証拠略)によれば、直接事実を見聞した児童の作文には、総じて、右の残った牛乳は、飲まなかった人の親が働いて出してるお金で買ったものなんだから先生がそんなことをしてはいけない、という趣旨の発言をした旨の記載があるのみであるから、宇津木が児童の前で原告を泥棒呼ばわりしたとの事実を認めるのは困難といわざるを得ない。宇津木の前記謝罪の事実は、右認定を左右しない。右によれば、宇津木の右発言は、原告の名誉を毀損し、児童に対する信頼を失わせるような違法な発言とは必ずしもいえない。
(四) また、右の件に関する井上、被告関口の前記対応や言動は、総じて、教員間の感情的な衝突をできるだけ和らげる方向で事態の収拾を図っていたものであり、ことさらに、原告の前記各行動を非難・攻撃し、原告の教育活動を妨害したものとは言えないから、右対応・言動は違法でない。
井上の羽村町(当時)教育委員会に対する報告も、右事実関係のもとにおいては、何ら虚偽の事実が記載されているものではなく、このことによって、井上が原告の名誉を毀損したとはいえない。
10 いじめ11について
いじめ11の事実に沿う(証拠・人証略)は、あいまいな点があるばかりか、(証拠略)に照らして信用することができず、また、(証拠略)も、川上紀久子らからの伝聞に過ぎず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
三 そうすると、原告主張の被告福澤、同関口、井上、宇津木の各言動・行為はすべて、違法とは言い難いから、被告福澤、同関口の個人としての不法行為責任は勿論、被告羽村市の国家賠償法一条に基づく責任も認めることはできない。
よって、原告の甲、乙事件の各請求はその余の争点につき判断するまでもなく理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 樋口直 裁判官 八木貴美子 裁判官 酒井良介)